ボパール化学工場事故はなぜ起こった?技術士が原因と対策を考察【技術者倫理】

技術士活動
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(2024年9月更新)

 

この記事ではタイトルにある化学事故について整理したいと思います。

化学事故は発生しないことがもちろん大事です。

安全や倫理に対する企業内での教育はそのために進んでいると思いますが、安全を維持することにより形式化されることがあります。

その形式化された状態で不正や作業ミスなどにより事故が起こることが多いと考えられます。

今回は過去の事例を挙げて勉強したいと思います。まさに「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」です。

技術士第2次試験においては、「技術士倫理」という観点で過去の事例と個人の見解、対策案を述べよという質問が想定されます。過去の事例を理解して、自分の回答を用意することも大事です。

※本記事は文章中心で、多少見にくいかもしれませんのでご理解ください。

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はじめに

化学部門で議論すべきものがないかと考えたときに真っ先に挙がったのが、ボパール化学工場事故です。世界最悪の化学産業事故とも言われた事故です。

1984年に発生した事故で、今から40年近く前の事故になりますが、訴訟関係はいまだに未解決で、周辺ではいまだに環境問題が発生しています。

そんな事故の概要を説明しながら、なぜこの事故が起こったのか、技術者倫理的に書きたいと思います。

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事故の概要

1984年の12月の夜中に、インド、ボパールの化学工場から猛毒のMICガスが漏洩しました。

漏洩した毒性のMICガスは風に乗って市街地に拡がり、3,000人以上(最大14,410人)の死者と35万人もの被災者を出しました。今なお多くの人が長期間後遺症に苦しんでいます。

MIC:イソシアン酸メチル
用途:農薬の中間体でゴムや接着剤の生産に使われています。

以下の画像はウィキペディアからの事故後の工場跡写真(2010年ころ)になりました。

引用:Wikipediaより

 

漏洩の原因

  1. 運転ミスにより製造時の溶媒であるクロロホルムの多い不合格品を留出した
  2. 工事の手違いにより、貯蔵タンクに水を混入させた
  3. MICと水との発熱反応によるタンク内温度の上昇
  4. MICに混入したクロロホルムの水存在下での熱分解による塩化水素の生成と鉄の溶出
  5. 鉄触媒によるMICのトリマー化反応によりタンク内圧力と温度が上昇

3種類の安全装置を保有していたが、何れも停止中で何らの役に立たなかった管理の問題があります。

さらに最終製品のライフがなくなり、装置が赤字であったため、親会社を含めて、一切の安全投資、安全教育・訓練などを放棄していた、リスクマネージメント不在の経営が原因として挙げられるでしょう。

背景

毒性のMICガスが放散される引金になったのは、作業のミスであり、運転中の蒸留のミスです。

作業のミスについては、新任の管理職が指示したとされているが、管理職の問題か担当者のミスかどちらかでしょう。

貯蔵タンクには3種類の安全装置が設置されていたが、事故発生当時はどれも停止していました。

  • MICの蒸発を避けるための冷凍機:停止
  • MICをアルカリで吸収するための除害塔:停止
  • 漏洩ガスの燃焼する排ガス燃焼塔:停止

→MICと言う猛毒の化学品を扱いながら、それを安全に管理する意識が殆どなかったと考えられます。

当時MICの最終製品である農薬が、世代の交代で別系統の農薬に置き換えられつつあったため、MICの工場は赤字であり、親会社共々新たな投資や安全教育訓練は殆ど等閑にされていました。

そのようなことから、会社の志気も落ち規律も守られず、先行する事故が複数件起こっていたものの、それも全く活かされていませんでした。

猛毒のMICを生産・貯蔵していることへの社会的責任を放棄している親会社と運転を担当している現地子会社の共同責任が本当の原因と考えられます。

リスクマネージメントが完全に欠けた事例ということができるでしょう。

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この事故から得られる教訓

  1. どんなに経営状況が悪くとも、最低限の安全対策や安全教育を怠れば事故が起こる。
  2. 化学薬品は毒性の強いものがあり、安全確保は企業幹部の重要な責務である。
  3. 子会社の引き起こした重要災害は、子会社だけではなく、親会社も責任を取らされる。

→この点は技術者倫理について見解を求められるので自分だったらどのような対応して事故を起こさないように上司に要求、説明するべきか整理するとよいと思います。

個人的な意見

時代背景があるかと思いますが、材料はMICに問わないという前提で考えます。

また、安全面という観点で意見を話します。技術者倫理という意味ではまた別の解釈があるのでそれについてはこの記事では述べない予定です。

製造するものを理解する

近年は法令遵守やSDSの必要性から材料を管理する側は厳しくチェックしているかもしれません。

一方、実際に使用している立場はどうでしょうか。

製造現場では可能性が低いですが、上流側、つまり研究や設計側に行くとその認知は低くなっていると思います。

下手すると危険度も教えてもらわないまま、材料を取り扱っている可能性もあります。

極端かもしれませんが、これは不正に近い状態です。

現場は責任を持たずに効率や低コスト化のために行っている可能性があります。

「少量だから」「短い時間しか使わないから」ではなく、自分が扱うものがどんなものかよく教育して、理解することが必要です。

SDSシートを使うことは当然ですが、最近の法令に適したものかどうかも含めてかチェックした上で理解することをしていきましょう。

設備を理解して使う

設備は取り扱い説明や手順書を見て教えることはあるでしょうか。

実際は現場でその場で上司や先輩が口頭で説明することがほとんどではないでしょうか。

その場合、基本的なマニュアルのみで、なぜそれを行うのかそれを守らないとどうなるのかという点がわからないまま当人が使うことになります。

その場合、少しでも設備に異常が発生したり、手順を間違った時に対応できるでしょうか。

安全装置はどうやって作動するのか、どうやってガス漏れが防がれているのか、漏れたときの対応などを理解しておく必要があります。

安全装置を稼働する手順を加えるために面倒なこともあるかもしれません。

しかしそれを行う作業の手間と、ガス漏れが起こってからの手間を比べたら、前者の方が圧倒的に手間になりませんよね。

手順書は開発や製造に問わず残すことです。

安全のポイントも踏まえながら誰が見ても作業できることが基本中の基本です。

危険度を知ることで、不正行動を起こそうとしている場合に対して感度を持つことができると思います。

リスクアセスメントを定期的に行う

設備や作業のリスクアセスメントは、導入時に行うことが多いと思います。

仮に何十年も同じ工程で進めたとしても、定期的にリスクアセスメントを行うことが必要です。

設備や作業が同じでも、人は必ずしも同じではありません。

危険度や頻度も変わっている可能性もあり、リスクが導入当時よりも変化していることがあります。

まとめ

  • 使う材料の危険度を知る
  • 設備を使い方だけでなく、安全制御の仕組みを知る
  • リスクアセスメントは定期的に行う
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