2019年度から必須科目が択一式から記述式に改定されたことで、技術士筆記試験は5時間半の筆記マラソンになりました。
その中でも、必須科目Ⅰは3枚で2時間の時間配分になっています。
必須科目Ⅰは1問ですが、ここでA判定を取らないと不合格になってしまうため、確実にA判定を取る必要があります。
たった1問と思われるかもしれませんが、2時間の中で問題(2問の中で選択)を選び、構成を考えて、それから3枚の解答用紙を埋めるのは簡単ではありません。
この記事では、必須科目Ⅰについての私なりの対策を書きたいと思います。
はじめに
まず出題者が「どんな解答を求めているか」知ることから始めましょう。
設問に素直に答えること以上に、コンピテンシーに相当した内容を書くことが合格への近道だと思います。
必須科目Ⅰに必要な能力
では必須科目Ⅰに求められる事とははどんなものでしょうか。
それは問題解決能力、課題遂行能力、問題解決、応用能力です。
なお、各問題に求められる能力については以前の記事で触れているので、合わせてチェックしてみてください。
問題解決能力及び課題遂行能力、応用能力
技術士会では以下のように掲載されています。
専門知識
・専門の技術分野の業務に必要で幅広く適用される原理等に関わる汎用的な
応用能力
・これまでに習得した知識や経験に基づき、与えられた条件に合わせて、問題
や課題を正しく認識し、必要な分析を行い、業務遂行手順や業務上留意すべ
き点、工夫を要する点等について説明できる能力
問題解決能力及び課題遂行能力
・社会的なニーズや技術の進歩に伴い、社会や技術における様々な状況から、
複合的な問題や課題を把握し、社会的利益や技術的優位性などの多様な視点
からの調査・分析を経て、問題解決のための課題とその遂行について論理的
かつ合理的に説明できる能力
出題内容
・現代社会が抱えている様々な問題について、「技術部門」全般に関わる基礎的な
エンジニアリング問題としての観点から、多面的に課題を抽出して、その解決方
法を提示し遂行していくための提案を問う。
評価項目 技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)のうち、専門的学識、問題解決、
評価、技術者倫理、コミュニケーションの各項
引用:技術士会HP 平成31年度技術士試験の概要について
リンク:https://www.engineer.or.jp/c_topics/005/005698.html
【問題解決能力及び課題遂行能力のポイント】
複合的な問題や課題を把握、多様な視点からの調査や分析、課題と遂行を論理的かつ合理的に説明
【応用能力のポイント】
問題や課題を認識、留意点や工夫点を説明(ここでは倫理上)
問題解決
コンピテンシーである問題解決も、同じく記載されています。
・業務遂行上直面する複合的な問題に対して、これらの内容を明確にし、調査し、これらの背景に潜在する問題発生要因や制約要因を抽出し分析すること
・複合的な問題に関して、相反する要求事項(必要性、機能性、技術的実現性、安全性、経済性等)、それらによって及ぼされる影響の重要度を考慮した上で、複数の選択肢を提起し、これらを踏まえた解決策を合理的に提案し、又は改善すること
引用:技術士会HP 平成31年度技術士試験の概要について
リンク:https://www.engineer.or.jp/c_topics/005/005698.html
【問題解決のポイント】
複合的な問題、要因分析、評価、解決策提案
それで結局何を書くの?
設問からの流れを読み取ると、下記のようなことが必須科目Ⅰでは求められているのではないかと思います。
複合的な問題や課題→技術部門のエンジニアリング問題→多様な視点からの調査、分析→問題や課題を把握→解決策提案→分析→留意点や工夫点を説明
実際の問題で考えてみよう
近年、「優れた特性・機能を持ちながら、より少ない環境負荷で製造・使用・リサイクル又は廃棄でき、しかも人にやさしい材料」である「エコマテリアル」が求められる。
幅広く自然と調和し社会の持続的発展を可能にする観点から、以下のいずれかの項目にあてはまるエコマテリアルの開発・生産・普及などの推進が提唱されている。
①有害物質の拡散が抑えられる、②温暖化物質などの排出が減らせる、③汚染を防止して浄化できる、④資源・エネルギー消費が減らせる、⑤埋立・焼却量が減らせる、⑥循環利用がしやすくなる(1)エコマテリアル推奨を多面的な観点から分析し、3つの課題を抽出し、その内容を観点とともに示せ。
(2)抽出した課題のうち最も重要と考える課題を1つ挙げ、その課題に対する3つの解決策を示せ。
(3)すべての解決策を実行した上で生じる波及効果と専門技術を踏まえた懸念事項への対策案を示せ。(4)前問(1)~(3)の業務遂行において必要な要件を、技術者としての倫理、社会の持続的発展を可能にする観点から述べよ。
引用:技術士会HP 過去問題 化学部門 令和2年度
リンクhttps://www.engineer.or.jp/c_topics/https://www.engineer.or.jp/c_categories/index02022225.html005/005698.html
部門によって設問のニュアンスは異なりますが、ここからは化学部門の過去問を見ながら、設問ごとに考えていきましょう。
カーボンニュートラルや環境問題に適した現代らしい問題ですが、その一方で、今に始まった問題でもありません。(エコマテリアルは1990年に生まれた言葉です。)
つまり、過去の問題を整理して応用することで、キーワードが一致しなくても問題を解くことができるのです。
設問1 課題を抽出する、分析する
技術部門が持つエンジニアリング課題を提案します。
化学部門でいえば、私が選択した無機化学及びセラミックス以外に有機化学、高分子、化学プロセスも含めた課題でなければいけません。また、課題の抽出方法が間違っていれば、あとの設問は何を書いても求められている回答に近づくことはないのが難しいポイントです。
それを踏まえた上ですが、個人的には目標と現状から課題を整理する考え方をお勧めします。
問題作成者はエコマテリアルを推進するためにはどうしてほしいかと求めています。
この問いに対しては、目標(私はこの3枚の回答の中で実現する)を提案することが最初であり、そしてその目標に対しての課題(現状とのギャップ)を抽出することが設問1の書く内容です。
その課題の抽出ですが、設問には「多面的」とあります。
多面的とは、シンプルに「人・モノ・金・方法・環境・経済」などから抽出した方法がいいです。(ただしお金が足りない、人が足りない等は技術的な課題や問題ではありません)
たとえば、生産効率(製造時間)、品質、環境負荷、工程が複雑、回収工程、など化学の場合は原材料から工程、廃棄の流れで部門共通の課題があります。
もうひとつ忘れてはいけないのが分析で、これは複数挙げた課題を分析します。
ここでは重要だと考えている項目についての分析を行います(課題放置による影響度など)。
例えば、A、B、Cの課題の中で、Aの課題を放置するとエコマテリアルの生産効率が50%落ちてしまうなどです。
分析におけるポイントは、可能な限り数値による結果を示すことです。専門家としての提案になりますので、数値で提示しましょう。
設問2 重要な課題を選び、解決策を示す
分析結果から重要な項目を選定します。先の文章から引用すれば、Aが重要な課題である、という表現です。(理由は分析結果があるので不要です。)
次に解決策を示します。設問次第ですが、ここでは3つ示すことが必要なので、設問通りに解決策を示します。
必須科目Ⅰの場合は方法を提案しましょう。ここでこのような事を言っているのは、選択科目Ⅲと異なるからです。
必須科目Ⅰの解決策:方法(Method)を提案
選択科目Ⅲの解決策:手法(Technique)を提案
→選択科目Ⅲの方がより具体的な解決案(つまり選択科目の専門性)の提案が必要です。
設問3 波及効果、懸念事項とその対策
波及効果は、コンピテンシーで言う評価であり、ポジティブ、ネガティブ問わず提案することで生じた結果を評価することになります。
例えば、解決策D、E、Fを採用することで生産効率を従来より20%向上することができる等です。
解決策には当然背反事項が生じますが、その背反事項を専門分野目線で提案することがあります。
例えば、生産効率20%上げるために乾燥時間を短縮する提案があり、焼成時間の短縮には、乾燥不足により強度低下が懸念事項として挙げられるとします。
そしてその対策として、例えば強度補強材を入れる、乾燥温度を上げるなど強度を維持する対策案を提案します。
→ここはある程度専門的な目線でリスクの提案とその対策案を上げることが必要です。
設問4 遂行する上での技術者倫理と持続可能性
設問1から設問3(課題抽出から懸念事項に対する対策)を進めていく上での技術者倫理と持続可能性を考えます。
技術者倫理はここでは詳しく説明しませんが、公益確保(安全、環境含む)、機密保持をはじめ、さまざまなことに注意しながら業務を進める必要があります。
そして、持続可能性は、カーボンニュートラルやSDGsをはじめ、地球保全していく上で何が必要かを提案します。
生産効率を上げることで生産時のエネルギー消費量を減らし二酸化炭素削減に貢献する(地球環境保全のひとつ)ということもひとつでしょう。
まとめ
- 問題作成者と共感することが大前提(自分本位で書かない)
- 共感するために、設問に答えるのは最低限、その上でコンピテンシー等を求められることを意識する
- 該当部門の社会課題(提示された問題)に対して、目標を設定した上で該当部門の専門家としての回答をする